オートレースドキドキコラム

あるひのオートレース

2024年03月29日

 1999年12月8日に浜松オートでその事件(できごと)は起きた。第3回SGオートレースグランプリの優勝戦である。準決で3.305秒と、その時点では日本レコードタイムを出して4連勝の竹谷隆にオール連対の濱野淳。この両者が目立った今大会。0mオープンでの優勝戦は1枠・田代祐一が欠車。これで事実上の最内枠で有利になったのが伊藤信夫。

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枠 車 名   選手名 H 本走T 秒/100m 試走T
② ポトラッチ   伊藤信夫 0 2.47.5 3.284 3.25

⑤ ラブボート   竹谷 隆 0 2.47.6 3.286 3.23

③ ウォリアーズ1 島田信廣 0 2.48.1 3.296 3.24

④ エンブレム   濱野 淳 0 2.48.4 3.302 3.24

⑦ キブロワイト5 片平 巧 0 2.48.6 3.306 3.27

⑥ タイガー   鈴木辰己 0 2.49.1 3.316 3.26

⑧ ジゲン   淺香 潤 0 2.50.9 3.351 3.27

① ジンリキ   田代祐一 0 欠 車  故障  再試


2連複 2-5 1670⑧ 2連単 2-5 3670⑰
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スタートは竹谷が飛び出すが、伊藤信は枠を主張して1コーナーうまく回ってペースを上げて後続をチギる。あの鉄人・島田信廣でさえこの超ハイペースにはお手上げ状態で3着一杯だった。1着ゴールした伊藤信は、いまだに破られてない本走3.284秒を記録し、初のSG優勝をSG初優出、しかもホームグラウンドの浜松で獲ったことは、のちの選手・伊藤信夫のオートレーサーとしての歴史には忘れようにも忘れられない事件(できごと)だった。当時の伊藤信夫コメント「SG初優出に加え地元で優勝できたことが、たまらなく嬉しいです。スタート勝負とは思っていたが(田代祐一さんの)欠車のことは考えなかった。日本選手権の落車で師匠(山田隆久)に『焦るな』と言われ注意して走りました。とても乗りやすく10周回も短く感じました」。

注)当時はまだ3連単の賭式は確立されておらず、2連単で3千円は好配当なのである。

 今年は8月10日から15日に伊勢崎で行われる第28回SGオートレースグランプリ(ナイター・6日間)。かつて08年には永井大介が、09年には木村武之がSG初載冠を果たした大会。そして、七不思議である鈴木圭一郎が獲ってないSGという事実。今年もドラマが起きるのか、いささかフライング気味ではあるが楽しみである。

(文/中村)

 

2024年度前期ランクを考察

2024年03月22日

2024年度前期ランクを考察

近年は青山周平鈴木圭一郎のどちらかがナンバー1を獲得している全国ランキングだが、2024年度前期は青山周平が1位になった。これが2期ぶり9度目の全国1位となる。

青山周平の活躍ぶりはあえて述べるまでもない。昨年は最優秀選手賞にも輝いたし、年間最多勝利記録も塗り替えた。SGを含め記念レースでも好成績を残し続けた。走りの力強さは随一で、厳しいレース展開になっても強引に打開していく芯の強さがある。車券を買う側から見れば頼もしい存在だ。鈴木圭一郎は2位に陥落したが、高い連対率を誇っているし記念レースでも上位着でまとめている。

地区別で見ると川口に大きな変化があった。ここ近年は中村雅人永井大介が1位を争うことが多く、2期前は加賀谷建明、3期前は若井友和が1位になっていたが、2024年度前期は黒川京介が川口のナンバー1に始めてなった。更に言えば全国ランクでも3位に入る大躍進。前期の20位からは大幅なジャンプアップとなった。未だSGタイトルこそ取れていないが、あと一歩というところまでは辿りついている。SG未冠組の中では初Vに最も近い選手になっているのではないか。業界に新しい風が入る意味でも、黒川京介の川口ナンバー1奪取は嬉しいニュース。同じ川口地区では佐藤励が初のS級入り。前期はA級の100位だったので、こちらも急激な成長を感じさせるランクの変動。ランクの審査期間である2023年7月1日から12月31日までに9回の優出があり、その全てで連対している。その内、優勝が6回。その中にはG1とG2が1回ずつ含まれている。まだまだ成長の余地が大いにあるので、今後の走りにも注目だ。

伊勢崎地区は青山周平が10期連続でナンバー1だが、今期から初のS級昇格となる選手がいる。33期の伊藤正真だ。伊藤正真は数期前からA級の上位につけることはできていたが、S級になるのは初めて。言わずと知れた2世レーサーだが、実父の伊藤正司とは走りのタイプが真逆で、大外をブン回ってスピードを上げるスタイル。1級車乗りになってから課題点を一つずつ解消させている印象がある。スタートが安定して切れるようになってきたし、2023年5月からは重走路での成績が飛躍的に上がっている。いずれは伊勢崎を背負って立つレーサーへとなっていくだろう。

飯塚地区は有吉辰也が2期連続4度目の1位。それまでは荒尾聡が8期連続で1位を維持していたが、有吉辰也がここにきて盛り返しを見せている。大きなケガを乗り越え、少しずつ以前の動きを取り戻してきたが、ここ数期は全盛期の走りに近い状態になっている。若手では長田稚也が前期の17位とほぼ同じの18位。中村杏亮も前期の14位近辺の19位。この両者が将来の飯塚地区を担っていくか。

山陽地区は丹村飛竜が3期ぶり5度目の1位。エンジンの急激な変動が少なく、一度下降すると苦しい時期が長く続くこともあるが、その反面、好調時には1着を量産する傾向がある。基本的にスタートは切れるしスピードもある。特に重走路では高い1着率を誇っている。山陽地区では若手のS級選手が不在だが、永島潤太郎山本翔山本将之などは次期S級へ向け力を付けている。


文/高橋


 

最高の結果を残すために

2024年03月15日


 整備代についての話
  
 オートレースの競争車は選手個人の持ち物。車体の購入はもちろん、各パーツを交換するときも自費で購入して組み替える。エンジンがしっかりと動いている時はいいが、不調になると何かしらパーツ交換をして、レースで戦える状態に仕上げなければならない。主要なパーツの値段(税込み)をリサーチしたので紹介していく。


 
 まずはエンジンの心臓部とも言えるクランク。エンジンの性質を大きく変えたい時や、他の部品を換えてもエンジンに変化がない場合に最後に交換する最重要パーツだ。これが、17万2507円。
 
 そのクランクを包むパーツとしてあるのがクランクケース(通称ケース)。これを換えるだけでもエンジン状態が大きく変わる場合がある。これが、31万4305円。次にコンロッド。略して『ロッド』と言われる場合が多い。クランクと連結するパーツで、これも交換することでエンジンの性質がまあまあ変わる場合がある。ちなみに、1万4320円。選手のコメントで「下回りを組み直してパーツ交換も考えている」とあったら、このクランク、クランクケース、ロッドの交換があるかも。
 
 「中間までバラして点検します」とあったらシリンダー回りの確認のことを指す。何か気になる点があったらシリンダーやピストンの交換、もしくはその両方を同時に換える時もある。これもエンジン状態の変化にそこそこ影響がある。シリンダーが11万4805円。ピストンはエンジンの中に2つあるが、1個4231円。また、ピストン交換の際に同時に換えることがあるピストンリング(通称リング)は7238円。ピストンリング交換ではエンジンのパワーアップが望める。
 

 
 たまにある表現で「上回りを点検します」と言ったらヘッド回りの確認。シリンダーの上にあるパーツのヘッドは、その中にカムやバルブやバルブスプリング(通称バネ)などを内包する。ヘッドだけを交換する場合もあるし、その中のパーツごと交換する場合もある。ヘッドの交換だけでもエンジンが良くなったり、そうでなかったりする。ヘッド自体は21万7059円。カムは1万7649円。
 
 ガソリンと空気を混合するパーツとしてキャブレター(通称キャブ)がある。これの交換によってエンジン状態が変わる場合はそう多くないが、たまに影響を与える場合もある。1万4306円。
 
 落車した後や、ドドドが直らない時に交換する可能性があるのはフレーム関係やフォーク。フレームの三角が7万9200円。上バックが1万5840円。下バックが2万7720円。フォーク各種3万8720円。
 
 最後に選手が最も購入する機会が多いのがタイヤ。同じ材料、同じ工程で作られるものだが、製造時期によって性能に差があったりする。これが1本1万516円。選手によって購入本数はまちまちだが、有力選手になってくるとひと月に10本程度購入する選手もいる。
 
 パーツによって値段は違うが、どれも安価ではない。選手たちは自身が思うようなエンジンを作るためにいろいろなものをかけている。レースで最高の結果を残すために。
 
(文・高橋)

 

2月を振り返って

2024年03月08日

 2月の出来事

 【最多勝利記録更新】
 2月の月始め、とんでもない偉業のニュースが飛び込んできた。高橋貢(伊勢崎22期)がオートレース最多勝利記録を更新した。2月2日時点で1,637勝を達成。それまでは山陽の元オートレーサー・小林啓二の1,636勝が通算勝利数で最高記録だった。それを抜いての通算1位。2月1日までの成績では以下、3位に岩田行雄(伊勢崎15期)が1,592勝。4位に秋田敬吾(山陽5期・引退選手)で1,557勝、5位に鈴木辰己(浜松13期)で1,525勝が入っていた。
 
 高橋貢「勝てて数字を見ると、大変な数字になる。長いことやったんだなという実感が大きいのと、ほっとしたと言うか、でも、あまり意識はしていなかった。1,637回、お客さんの期待に応えた数字。お客さんに感謝ですね。後から伸ばしてくる選手のモチベーションになるためにも、より、数字を伸ばしていきたい」とのコメントを残した。
 
 小林啓二が1,636勝を達成したのが64歳の時。高橋貢は52歳での記録更新なので、高橋貢の偉才さがより際立つ。レースで勝つためにあらゆる技術を身に付けているが、その中でも特に雨を全く苦にしない点は、通算勝利数を伸ばせる大きな要因。オートレースは良走路だけでなく、重走路でも競争しなければならない。


 【オート界初の昼夜同日開催】


 5日から7日の川口オートで、同じ日程で昼と夜に2つの開催が行われた。昼間は8車立てで全12R制。夜は7車立てで全8R制。昼間に出場した選手の中から56人が夜もレースをすることになった。同じレース場で1日に20R楽しめる企画は、おおいに関心が寄せられた。結果的には降雪のため、初日の昼間5R以降が中止。初日の夜も、2日目の昼も夜も開催中止になってしまった。3日目は開催可能で、昼間開催は中村雅人、夜開催は加賀谷建明の優勝で終わった。この企画は3月17日から3日間の日程で、同じ試みが行われる。
 
 【オートレース38期選手候補生の合格者決定】
 38期選手候補生が決定し、4月中旬からオートレース選手養成所に入所することが決まった。応募者数361名に対し合格者は20名(男子16名、女子4名)。競争倍率は18.1倍だった。約9ヶ月の養成期間を経て、2025年の1月にデビューする予定だ。
 
 【新人オートレーサー・浅倉樹良が記録ずくめの優勝】

 15日、伊勢崎オートで浅倉樹良(伊勢崎37期)がオートレース史上デビュー最速優勝を達成。デビュー後22日目の優勝は、青山周平が持っていたデビュー後35日目の記録を大きく上回った。また、デビューから10連勝を達成。今年デビューした37期の中でも最速での優勝となった。
 浅倉樹良「素直に嬉しいです。レース道中は、後ろの森村亮選手のエンジン音が聞こえていて、近い距離にいると思ったので、ミスをしないよう走りました。これからもたくさん頑張り、次節も優勝したいと思います」とコメントし、結果的にこれは有言実行となる。
 その後の3日間開催でもオール1着の完全優勝を達成し、2節連続での優勝。そしてデビュー13連勝を決め、青山周平が持っていたデビュー12連勝の記録をも更新してみせた。

文/高橋

 

2023年オートレース選手表彰式

2024年03月01日

 
 2月27日、2023年オートレース選手表彰式が東京都内のホテルで行われた。
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 最優秀選手賞(MVP)には青山周平(伊勢崎31期)が選ばれた。青山はSGオートレースグランプリ、SG日本選手権オートレース、SGスーパースター王座決定戦で優勝し、更に賞金王、年間最多勝利となる97勝を挙げるなど文句のない成績を収めた。これで最優秀選手賞は2年ぶり4度目の獲得となった。
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 青山周平「昨年は想像を超える成績を収められました。まあ、勝利数は、出走回数も増えていますし」と謙そんしていたが、年間勝利数は過去最多。大みそ日のスーパースター王座決定戦を制した後は「(家に帰ってから)奥さんのヒレカツを食べました。(開催中は)食事を制限しているし、苦しい苦しい開催が終わって、家に帰った時のご飯はもの凄くおいしかったです」と昨年最後の食事は最高のごちそうになった。若手の活躍については「スピードある、若さ溢れる走りが目立っているので本当に刺激になります」といい方に作用している様子。今年については「いつも通り、目の前の1走1走を全力で挑めるように頑張りたいと思います」と締めた。
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 優秀選手賞は鈴木圭一郎(浜松32期)、黒川京介(川口33期)、佐藤摩弥(川口31期)の3名が受賞した。4度目の受賞となる鈴木圭一郎はSG全日本選抜オートレース、SGオールスターオートレース、G1ゴールデンレース、G1開設記念レースなどで優勝。十分な成績を残したが「とても嬉しいんですけど、悔しいって方が大きいです。やっぱり、もう一つ上のMVPっていうのが存在するので、それを取れなかったのはとても悔しいです」と、優秀選手賞受賞にも複雑な心境を吐露した。やはり、トップレベルの選手は目指すところが違う。今年の目標は「昨年はケガをしてしまったので、ケガなくあっ旋されたレースは全て走り切りたいなと思っています。そして、今年はMVPを取れるように精一杯頑張りますので、応援よろしくお願いいたします」と決意を表明した。
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 黒川京介は初受賞。SGスーパースター王座決定戦で3着、SGオートレースグランプリでは準優勝、G2を2つ優勝するなどの活躍が評価された。「新人賞以来、初めて来れたので、頑張ってやってこれて良かったなと思っています。苦しい時期もありましたし、いい時期も長く続いたってのもあって、嬉しい気持ちも悔しい気持ちも、いろんなことが経験できた1年だったと思います」と1年を振り返り「いい状態が続いているので、来年も優秀選手賞に呼ばれるように、また、もう一個上を目指して1年間頑張ります」と力強く述べた。
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 佐藤摩弥は「特別賞は何度かいただいていたんですけど、優秀選手賞は今回が初めてなのですごく嬉しいです」と女子レーサー史上初のG1優勝や、SGオールスターオートレース準優勝などが評価された。SG優勝へ向けての話題になると「(G1)キューポラ取る前も、ファンの方にはSG取れるよって言ってもらったりしてたんですけど、優勝戦に乗れても優勝争いするところまではいけなくて、その前にG1と思っていたので、その段階は踏めたかなと思うんですけど。じゃあ次はSGってなると、まだまだ実力が足りないと思っているので、早くSG取りたいって言えるようになりたいですね」と謙虚さの中にもほのかに燃える闘志を感じさせてくれた。
 
 最優秀新人選手賞には栗原佳祐(浜松36期)、優秀新人選手賞には吉林直都(浜松36期)が選出された。
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 栗原佳祐は36期生の中で最初に優勝。更には完全優勝を成し遂げた。「この素晴らしい会場で、このような式典に呼んでいただき、大変光栄に思っています。1年間、波は激しかったけど、いい経験ができたと思います。これからも1走1走、全力で走るので応援よろしくお願いいたします」。
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 吉林直都は優勝3回で、36期の中では最多優勝回数。「そんなに大きなミスをしないタイプではあるので、まずは試走から、きょうの吉林はどうかなと見ていただければと思います」とアピールポイントを語っていた。
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 表彰式 上村.jpg 通算勝利記録選手賞は1着1500回で篠崎実(川口9期)と鈴木辰己(浜松13期)、1000回で上村敏明(浜松7期)が受賞した。篠崎実は公営競技界最年長優勝(73歳10ヶ月29日)も達成した。3者ともすでに70歳を越えるレジェンドレーサー。元気一杯の走りは同年代のファンにも希望を与えるはず。
 
 文/高橋

 

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