オートレースドキドキコラム

師匠と弟子の話

2023年12月29日

 オートレーサーはデビューする時に、時期を迎えた先輩選手が師匠として付き、オート界の作法や整備のやり方を指導する。今回は師匠と弟子の話を紹介したい。(21期・吉田幸司と31期・佐藤摩弥)
 
 -「11月18日時点でお弟子さんの佐藤摩弥さんとの対戦成績が、吉田幸司さんの11勝6敗と勝ち越しですよ?」

 吉田「ああ、勝ち越しと言ってもハンデがあるから意味がないんじゃないかな。その中での話になっちゃうから」

 -「一緒のレースになる時に、負けたくないとか気持ちは変わるんですか?」

 吉田「変わんないですよ。変わるわけないじゃないですかぁ。そんなんで変わったら、いつも勝てちゃうじゃないですか。たまたまですよ。絶対そうですよ。だってそれって、選手は全然意識してないですよ。ハンデがあっての結果だから。これが同ハンだって言うなら、また違うと思うけど。ハンデもらっての結果だし、全然、それは全く関係ないですよ。全く気にしてない。気にする立場じゃない。ハンデ前から走ってるんだし」

 -「お弟子さんを持つと、その直後に再び活躍される師匠さんって多い気がするんですけど、その辺どうですか?」

 吉田「まあ、とりあえず、あのぅ、悪くはしないですよね。やっぱり、あのぅ、とりあえず責任はあるから、やっぱり、ある程度ね、行動とかで示さなきゃいけない部分はもしかしたらあるのかも。今までに比べて悪くすることはないと思いますよ。でも、結果に関してはやっぱり自分ひとりで走ってるわけじゃないので。まあ、あの、人間がどうこうってのはね、やっぱり違うんでしょうけど。だらしない姿っていうのはやっぱり、お手本にならないでしょうからね。だから、ちょっと気が抜けてたら、ちょっと頑張るか、みたいな気持ちにはなるんでしょうね。ただ、結果は関係ないですよ。姿勢はね、見て変わったかもしれないですけど」

 -「お弟子さん、デビューして12年経ちますけど、今でもお弟子さんがいることによって、気持ちの面で何か刺激を受けるとかありますか?」

 吉田「うーん、まあ、とりあえずね、ダメな時はみんな手を動かさなきゃ良くなんないので、やっぱり調子が悪ければ(佐藤摩弥さんは)手を動かしてるし。いつも動かしてるけど、納得いかない時はより動かしてるし、そこでね、やっぱり結果に結び付けてるんでね、自分も見習わないといけないと思うし。だから、逆に自分がね、そういう部分で教わっちゃってるかもしれないし」

 -「いい関係ですね」

 吉田「はい、まあ、そうですね。自分には、いい見本が近くにいるから、うん、自分にはいいと思います」

 勝負の世界で生きる姿勢を師匠が示し、弟子は期待に応えるべく全力を出せるようにオートレースに取り組む。それがまた、師匠の発奮材料になる。吉田幸司と佐藤摩弥は良好な師弟関係が築き上げられている。ここまで佐藤摩弥が成長したのも納得がいくし、速攻を武器に今でも見せ場を作れている吉田幸司にもうなずける。
 
 文/高橋

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■吉田幸司選手のプロフィール・成績

■佐藤摩弥選手のプロフィール・成績

 

2023年のSG戦線を振り返る(SG日本選手権まで)

2023年12月17日

 鈴木圭一郎の「スーパースター王座決定戦」2度目の制覇で幕を閉じた2022年のSGシリーズは、明けて2023年は2月の「全日本選抜」からスタート。


○「SG第36回全日本選抜」(2月22日~26日・浜松レース場)
 佐藤摩弥が6度目のSG優出、準決勝戦で青山周平を逆転した中村杏亮のSG初優出、永井大介の通算1300勝到達などトピックの多かった大会の総仕上げは鈴木圭一郎。初日から準決勝まで無敗の4連勝、枠番選択の決勝戦1枠を獲得するとレースでは10周回を独走。通算5度目の「全日選」Vは、史上単独2位の記録となった。
 優勝戦1着...鈴木圭一郎 2着...金子大輔 3着...伊藤信夫 4着...佐藤摩弥 5着...中村杏亮 6着...中村雅人 7着...荒尾聡 8着...永井大介


○「特別G1プレミアムカップ」(3月17日~21日・山陽レース場)
 前年から台頭しつつあった黒川京介・中村杏亮・長田稚也などの若手が、一段と勢力を伸ばしてきた大会。特に黒川は初日~3日目の3走とも本走3秒台をマークして注目されたが、4日目の準決勝戦でフライングを犯して失権してしまった。
 最終日5日目は1Rから雨で決勝戦も重走路。スタート飛び出した青山周平が1周1コーナーで車速の下がったところを金子大輔がイン交わして先頭も2周2コーナー立ち上がりでコースを外し、荒尾聡が首位を奪取。徐々に車間を拡げて残りの7周を逃げ切った。
 荒尾はSG優勝5度、勝利数は900を超えるなど輝かしい戦歴を持ちながら、プレミアムカップは意外にも初めての優勝。年末の「スーパースター王座決定戦トライアル」へ出場するために必要なポイントも、この時点で獲得できた。
 優勝戦1着...荒尾聡 2着...金子大輔 3着...青山周平 4着...若井友和 5着...高橋貢 6着...松尾啓史 7着...篠原睦 8着...鈴木宏和


○「SG第42回オールスター」(4月25日~30日・飯塚レース場)
 ファン投票によって出場選手が決まる大会。今年は佐藤励、横田翔紀、深谷俊太がオールスター初出場、新井日和、金田悠伽、信澤綾乃、石本圭耶がSG初出場。そして、落車事故から長期の療養を経て3週間前に実戦へ復帰したばかりの森且行が、堂々のファン投票第3位に選出された。
 4月から適用の最新ランキングでS1を陥落した鈴木圭が、史上最多タイとなる大会3連覇をめざして臨んだ今回は、車が仕上がらず整備にもがき苦むシリーズとなった。結果的に彼の追い風となったのは、前回大会から日程が延びて6日制開催に変更されたことかも知れない。従来なら閉幕していた5日目でなく、最終日「6日目」ギリギリにマシンの状態が急上昇。スタートで5番手あたりに付けると道中は青山周平に1度も前へ出させず、先行車を捌いて8周で先頭へ立ち、オールスター3連覇とSG開催3連続制覇のゴールへ飛び込んだ。
 なお、佐藤摩弥が女子レーサー史上最高&初めてのSG準優勝を果たし、初の女子SGレーサー誕生が一段と現実味を増してきた。
 優勝戦1着..鈴木圭一郎 2着..佐藤摩弥 3着..青山周平 4着..西原智昭 5着..金子大輔 6着..荒尾聡 7着..篠原睦 8着..角南一如


○「SG第27回オートレースグランプリ」(8月10日~15日・伊勢崎レース場)
 開催前から話題を集めたのは、鈴木圭一郎の自身2度目となるSG開催4連続制覇と、史上7人目のSG全冠制覇=グランドスラム達成なるかであった。
 決勝戦の枠番は、予選中の得点上位者から順に任意の番号を選んでいく方式。選択順トップの青山周平が1枠を選び取ると、選択順2番目の鈴木圭が5枠をチョイス。春のオールスターとは異なり準決勝戦を終えた時点で車の状態に好感触を得ており、内枠でなくとも勝てる自信があったからか。
 ところが決勝戦は、8名でただひとり試走2秒台をマークした鈴木圭のスタートが決まらず、1周1コーナーに先頭で進入した青山周が鈴木宏和の追撃を封じてレース後半は独走態勢。自身2度目のグランプリ2連覇、通算4度目の大会Vを達成した。
 黒川京介は5度目のSG決勝へ挑み、レース後半に鈴木宏を捌いて2着。2021年「スーパースター王座決定戦」と同様、青山周に対しては完敗だったが、栄冠の獲得は遠い将来ではない、そんな予感を多くのファンに抱かせただろう。
 優勝戦1着..青山周平 2着..黒川京介 3着..鈴木圭一郎 4着..鈴木宏和 5着..金子大輔 6着..佐藤貴也 7着..中村雅人 8着..篠原睦


○「特別G1プレミアムカップ」(9月14日~18日・浜松レース場)
 2022年は8月に「SGグランプリ」、9月に「ムーンライトチャンピオンカップ」と「プレミアムカップ」のG1を連覇した青山周平。今年もグランプリとムーンライトを優勝し、同じ流れを作れるか。
 3日目まで全勝し順風満帆かと思われた4日目の準決勝戦、青山周はゴール寸前に中村雅人の猛追を受けて2着に敗れた。決勝戦は枠番選択制。準決勝戦の1着選手から優先的に枠を選べるため、2着だった青山周の選択する順番は必然的に5番目以降となってしまう。4戦全勝の黒川京介が1枠を選択し、青山周は内枠を得られず5枠に。
 だがしかし、当時のランキングS1は優れた対応力を発揮する。黒川に続く2番手で発進した青山周は鈴木宏和に序盤イン突かれてしまったが冷静に再逆転すると、すかさず先頭の黒川を捌いて先頭へ。4度目の大会優勝を果たした。
 優勝戦1着..青山周平 2着..黒川京介 3着..佐藤貴也 4着..鈴木宏和 5着..中村雅人 6着..木村武之 7着..有吉辰也 8着..佐藤摩弥


○「SG第55回日本選手権」(10月31日~11月5日・浜松レース場) 
 6日制の長丁場で、初日から5日目までの道のりにも当然ドラマは数多くあったが、最大の分岐点は準決勝戦を突破した8名による0mオープン戦の枠番選択であった。選択順1番目の鈴木圭一郎が、夏のSGグランプリと同じ5枠をみずから選択。2番目の伊藤信夫が2枠、3番目の永井大介が3枠、4番目の長田稚也が4枠を選び取っていく。
 この時点でまだ、1枠が残っていた。準決勝戦を2着に敗れて選択を5番目まで待たざるを得なかった青山周平に、まさかのオープン戦の最内枠が巡ってきた。
 決勝戦のスタートが切られて、永井に続く2番手発進した青山周は、1周バックストレートで外から迫る鈴木圭を突っ張り、内から狙ってくる有吉辰也を抑え込むと、2周スタンド前で永井のインを捌いて先頭へ。残りの9周回を逃げ切り大会2連覇。4度目の日本一の称号を獲得した。
 なお、SG開催+プレミアムカップの優勝戦の成績で与えられるポイント数によって決まる「スーパースター王座決定戦トライアル」の出場権利争いも結果が出て、高橋貢が中村杏亮・篠原睦・角南一如を逆転してトライアル16名に名を連ねることとなった。
 優勝戦1着..青山周平 2着..鈴木圭一郎 3着..永井大介 4着..長田稚也 5着..高橋貢 6着..有吉辰也 7着..佐藤摩弥 8着..伊藤信夫


☆「スーパースター王座決定戦トライアル」(12月27日~31日・川口レース場)出場予定16名
 鈴木圭一郎 青山周平 中村雅人 有吉辰也 松尾啓史 金子大輔 佐藤摩弥 黒川京介
 荒尾聡 永井大介 伊藤信夫 鈴木宏和 長田稚也 西原智昭 佐藤貴也 高橋貢

 

2023年度後期適用ランキングを考察

2023年12月12日

 オートレースは毎年2回、全国ランクの変動がある。1月から6月までの採点期間に集計されたものが10月から半年間適用される。また、7月から12月まで採点されたものは翌年の4月から適用される。

 今年も10月から2023年度後期ランクが適用されている。ランク上位者の簡単な評価を述べたい。
 
 1位は鈴木圭一郎。2期ぶりに全国ランク1位に返り咲いた。2017年度前期から2019年度後期まで6期連続でナンバー1を維持していた時期もある鈴木圭。今回で8度目のランク最上位となった。採点期間にはSG全日本選抜とオールスターオートレースで優勝している。全53走中、1着が35本、2着8本、3着7本で4着以下が3回だけ。驚異の車券貢献度を誇っている。今年は8月中旬から1ヶ月半、戦線を離脱していたが、復帰してからもほぼ3着以内でまとめている。スタート、スピード、捌きのどれをとっても一流だ。

 2位は青山周平。2019年度後期からは鈴木圭か青山のどちらかが1位と2位で占めている。前期の1位からは陥落してしまったが、実力的にはほぼ差はない。これまで鈴木圭と同じ8度、全国ランク1位になったことがある。今年はオートレースグランプリと日本選手権でSGを獲っており、変わらぬ充実っぷりを見せている。採点期間は全68走中、1着が39本、2着15本、3着7本で反則を含めた4着以下が7回だけ。安定感はケタ違いだ。

 3位は金子大輔。前期の12位からは大幅アップ。金子は2012年度後期に一度、1位になっているが、今回の3位はそれに次ぐ好数値。レースでは落ち着いた走りで着実に番手を上げていくタイプ。レース運びも巧さは全国屈指だ。記念タイトルからは5年ほど遠ざかっているが、いつ大舞台で優勝してもおかしくない技術は保っている。

 4位は佐藤貴也。前期の8位からはアップしている。過去最高ランクは2018年度後期の2位。浜松29期として金子と切磋琢磨し、共に総合力を高めつつ成長している。大きな武器はスタートとイン強攻。同ハンに数車並んだ外枠からでも先行するケースは多いし、レース道中が大渋滞になっていても、その内側に切り込んでいける精神力の強さがある。

 5位は中村雅人。過去に2度、1位になっているが、ここ数年はこの近辺で軽い上下動を続けている。ある意味、安定した成績を残せているといえるが、最も走りがキレていた時と比べると最近はややおとなしい。一対一での絶対的な強さを誇っていた時の動きが出れば、SG戦でも優勝争いに参加できる。

 6位は佐藤摩弥。前期は14位だったが、今期はS級ひと桁にランクアップした。今年は地元のGⅠキューポラ杯でGⅠ初制覇を達成した。以前はスタート力の高さに目がいっていたが、今はスピードも捌きもトップクラスのモノになっている。女子初のSGレーサー誕生となる日も遠くないか。

 7位は高橋貢。前期の4位からはダウンしているが、S級シングルを保っているのは流石。通算SG21Vはブッチ切りの歴代最高記録。整備力にも定評があり、ここ一番の大事な場面ではしっかりとエンジンを仕上げてくる。また、レース運びは危なげなく、反則をすることはほとんどない。全オートレーサーのお手本となる選手だ。

 8位は有吉辰也。前期は16位だったので大幅にアップ。2010年度後期にランク1位になっているが、大きな怪我をしてからは苦しんだ時期もあったが、徐々に以前の走りが戻ってきている。好スタートからの速攻が得意だが、じっくりと追う展開になっても冷静に追っていける。雨も得意としており、オールラウンダー型だ。

 9位は若井友和。前期の15位から6つのアップ。常に10位前後のランクを保てている要因は走りに安定感があるため。スタートに勝負を賭ける方ではないが、混戦になってもスピード戦になってもジワリと浮上していける。調整力があるのでエンジンが大崩れすることもない。車券を買う立場からすれば頼もしい存在だ。

 10位は荒尾聡。前期は5位で、8期連続で飯塚ナンバー1だった。今期は飯塚の2番手になったが、走力が落ちているわけではない。昔から定評あったスタートと勝負強さが強み。重走路も得意だし、これといったウィークポイントはない。エンジンが仕上がれば、現オート界の2強に割って入れる力がある。

文/高橋英紀

 

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