地方競馬ドキドキコラム

2023年度のばんえい競馬を振り返る

2024年04月01日

 3月17日で2023年度のばんえい競馬の開催が終了した。
 ばんえい競馬は4月下旬に始まって、翌年3月までが1シーズン。ばんえい競馬は、条件クラスのレースまで含めて、開催が進むごとに負担重量が重くなっていく。
 たとえば2歳の一般戦ではシーズン当初は490kgから始まって徐々に負担重量が増え、最後の開催では2歳A級で580kg、2歳D級で550kgとなる(牝馬は20kg減、セン馬は10kg減)。実際の負担重量は、年度内の収得賞金によってさらに加増がある。
 古馬の主要重賞では、シーズン最初に行われる古馬重賞、ばんえい十勝オッズパーク杯の基礎重量は720kgだが、シーズンが進むに連れて重い重量での争いとなり、1月の帯広記念は基礎重量が890kg、そしてばんえい競馬の最強馬を決めるクライマックス・ばんえい記念は1000kgでの争いとなる。
 それゆえばんえい競馬は、平地競馬よりも年度(1シーズン)の区切りがはっきりとしている。
 
 今シーズンの古馬戦線は、一昨年、昨年のばんえい記念で順序を変えて3着以内に入ったメムロボブサップ、アオノブラック、メジロゴーリキという3強の活躍がより際立つシーズンとなった。
 シーズン最初に行われる古馬重賞・ばんえい十勝オッズパーク杯こそスピードを活かしてインビクタが勝ったが、その後、ばんえい記念の前までの主要古馬重賞では、メムロボブサップが北斗賞、旭川記念、ばんえいグランプリと3勝、アオノブラックも岩見沢記念、北見記念、チャンピオンカップと3勝、メジロゴーリキは帯広記念を制した。
 
 そして開催最終日、迎えたばんえい記念は、今シーズンそれまで14戦10勝、2着2回ときわめて安定した成績を残してきたメムロボブサップの単勝が1.9倍、アオノブラックが2.8倍、そしてメジロゴーリキが5.0倍で、3頭の3連複は、なんと1.8倍。昨年がこの3頭の決着で3連複4.5倍だったので、その数字を見ただけで今シーズンはいかに3強体制が強固なものになったかがわかる。
 勝ったのはメジロゴーリキ。第2障害手前まで早めに進め、十分に息を入れて障害も先頭。メムロボブサップは障害4番手から追いかけたが、障害を越えてから一度も止まることなく歩いたメジロゴーリキが振り切って勝利。メムロボブサップは持ち味である後半の脚を繰り出したものの、メジロゴーリキをとらえるまでには至らず2着。今シーズンそれまで出走した古馬重賞5戦ですべて掲示板を確保していたコマサンエースが3着に入り、一旦は3番手という場面もあったアオノブラックはゴール前で力尽き4着だった。
 ばんえい記念を前に降り出した雪でやや軽くなった馬場は、高重量戦でタイムのかかる決着を得意とするアオノブラックには向かなかったようだ。
 一昨年に続いてばんえい記念2勝目を挙げた10歳のメジロゴーリキは、レース前から言われていたようにこれで引退。レース後のインタビューで松井浩文調教師が、ときおり涙で声を詰まらせる場面が印象的だった。
 
240317ばんえい記念.jpgばんえい記念2勝目となったメジロゴーリキ(写真:ばんえい十勝)

 
 そうなると来シーズンの古馬戦線は、メムロボブサップ、アオノブラックという8歳の2本柱を中心に展開されることは間違いないだろう。前半の比較的軽い重量の重賞や雨で軽馬場になれば、同じく8歳のインビクタも勝負になる。前述のとおり重賞で常に掲示板を確保した同じ8歳のコマサンエースが2強にどこまで迫れるか。ひとつ下の7歳では、帯広記念3着で、ばんえい記念では第2障害を2番手で越えた(5着)コウテイが高重量戦で台頭してきそうだ。
 
 5歳世代では、柏林賞、銀河賞、天馬賞の4歳シーズンの三冠を制したキングフェスタが、2歳シーズン、3歳シーズンにもそれぞれ二冠を制していただけに圧倒的な存在。古馬重賞本格参戦となるであろう来シーズンに注目だ。
 3歳三冠(現4歳世代)では、ばんえい大賞典、ばんえい菊花賞の二冠を制したマルホンリョウユウに三冠の期待がかかったが、ばんえいダービーは、それまでの二冠とも掲示板外だったタカラキングダムが勝利。
 3歳世代(2歳シーズン)は確たる主役不在のまま混戦で推移してきたが、ライジンサンがシーズン終盤にヤングチャンピオンシップ、翔雲賞、イレネー記念と重賞3連勝で一気に台頭した。
 牝馬ではドリームエイジカップを制した6歳のサクラヒメが現役最強といえる存在。牝馬限定のカーネーションカップでは2着、ヒロインズカップでは3着に負けているが、トップハンデを背負わされていただけに、むしろ負けて強しといえる。
 
文/斎藤修

 

地方競馬史上初!佐賀競馬アイドル「UMATENA」デビュー

2024年03月18日

佐賀競馬に地方競馬史上初のアイドルグループ「UMATENA」が誕生しました。

グループ名の由来は、佐賀競馬が2022年から行う素朴であたたかなおもてなし「うまてなし」と、戦いの女神「アテナ」のかけ合わせから。

書類選考、歌やダンス審査などのオーディションを経て、7名のメンバーが決定。佐賀記念JpnIII当日の2月12日に佐賀競馬場でプレデビューイベントが行われ、初めてファンにお披露目されました。


2月12日佐賀記念JpnIII当日にプレデビューイベントを迎えたUMATENA

第1レースが始まる約1時間前に初回ステージが、そして2回目は第7レース確定後に行われ、写真は2回目のステージの様子。

ステージとなったのは、普段はレースの表彰式が行われる場所で、ぐるっと取り囲むように大勢のファンや地元テレビ局が駆けつけたほか、スタンドの屋外席も満席に近い状態となりました。

デビュー曲『Fanfare~幸せの合図~』が始まると、ファンからはしっかり合いの手が入って、息ピッタリ。
初ライブのはずなのになんで?と不思議に思ったのですが、実はYouTubeでオーディションの様子が紹介されていて、その中でこの『Fanfare~幸せの合図~』も一部、聴くことができるのです。

佐賀競馬の調教師にもオーディション動画をしっかりチェック済みの猛者たちがいて

「さっき、UMATENAのライブ見てきました」と立ち話をしていると

「う~まうまキュンッ♡てやつだよね?覚えたよ!」

と、ポーズ付きでサビをマスターしていました。


サビの「うまうまキュン♡」部分の決めポーズは、競走馬をイメージした可愛いもの

佐賀記念へ参戦していたJRA馬の関係者も
「UMATENAのことはSNSでチェックしてきましたよ!」

と、ものすごい注目度。
デビュー前から競馬場全体で愛されるアイドルとなっています。


中央の5枠黄色担当・桜衣かれんさんがUMATENAリーダー
1枠白色担当・有村のあさんのスカートには佐賀競馬公式キャラクター「パッカルくん」人形が

初ステージをスタンドから見守っていたご年配の競馬ファンと思しきおじいちゃんは

「まだまだやな」

と辛口コメントを残して立ち去りつつも、その表情はお孫さんを見るような優しい目つき。きっとこの言葉は期待の表れで、これから成長を見守ってくれるんだろうなぁ、と勝手に想像を膨らませていました。

元気いっぱいに競馬場を彩ってくれました

メンバーカラーは、枠色に合わせて白、赤、青、黄、緑、橙、桃の7色の担当があり、2枠の黒はファンの担当カラーとなっています。

さらに!
初のチェキ会やUMATENAグッズが当たるガチャも行われます。

個人的に気になるのが「UMATENA馬ガチャ」。
馬券風のアクリルキーホルダーなのですが、各メンバーの写真とカラーがデザインされていて可愛いのです。
馬券風っていうところが、競馬っぽくていいですよね。
ガチャなので、どのメンバーのキーホルダーが当たるかはお楽しみ。

3月24日のイベントは下記のとおりです。


■UMATENAプレデビューライブ
1回目:14:00頃
2回目:18:45頃
※時刻は変更の可能性あり
場所:中央表彰場

■チェキ会
1回目:15時頃

2回目:19時頃 ※時刻は変更の可能性あり

■UMATENA馬ガチャ
16:00頃(UMATENA特典会終了後)~開始予定
※佐賀競馬の1000円以上の未確定馬券を掲示でお1人様1回限り参加可能
※先着200名
場所:中央通路


詳しくは、UMATENAやさがけいばの公式HP、SNSをご覧ください。

ここで、UMATENAのみなさんからオッズパーク会員のみなさんへメッセージをいただいているので、ご紹介します。
※取材日:3月8日


1枠 白色担当 有村のあ

無事この7人でプレデビューできてすごく安心しました!たくさんの方に見て頂き、本番はとても緊張しましたが、とっても楽しかったです!!
キャラバンや取材など貴重な経験も沢山させていただき、これからうまてなとして、佐賀競馬はじめ、競馬や佐賀のことを広めて行けるように頑張ります!
そして次のライブまで残り16日になりました!プレデビューライブからレベルアップした、私達を見ていただけると嬉しいです!一緒にもりあげていきましょーー!


3枠 赤色担当 大原萌

初めてのUMATENAでのステージ!!!
本当にめちゃくちゃ楽しくってたくさんの方にUMATENAお迎えしてもらえて、恵まれた素敵な居場所が新しく自分に出来た事がすごく嬉しかったです。
お天気にも優しいファンの方にも恵まれ、これからたくさんの方に愛してもらえるグループにしていきたいです!
衣装もたくさん褒めてもらえて嬉しかったなぁ♡
UMATENA2回目のライブという事で、本当に待ち遠しい!!!
たくさん練習もしたりUMATENAのお仕事したりしてて、その度に早くライブしたいなぁって思って過ごしてるの!だから今回のプレデビューライブも本当に楽しみで、前回よりもパワーアップしたかわいーーーくて愉快なUMATENAに会いにきてほしいです♡
お天気ぽかぽか春日和で笑顔いっぱいのいちにちになりますように~♡


4枠 青色担当 望月琉菜

お披露目ライブの時は、緊張と楽しみな気持ちが入り交じってて、メンバーみんなで楽しくライブができて良かったです😊
想像していた以上に沢山の方が集まって下さって、UMATENAのライブを観ていただけて、本当に嬉しかったです!♡
3/24(日)は、2回目のプレデビューライブです!🌟
前回より楽しんでいただけるように、メンバーみんなで頑張って練習しているので、是非佐賀競馬場にお越しください!!


5枠 黄色担当 桜衣かれん

2月のプレデビューを終えて、やっとみなさんに見てもらえた!!って喜びとたくさんの方が待っててくれたんだって嬉しさで、とても幸せな1日でした!佐賀競馬場で大空の中でのパフォーマンス、めちゃくちゃ気持ち良かったし、これからもっともっとたくさんの方に見てほしいなって思いが高まりました。
次のステージでは、もっといいパフォーマンスをして、もっとUMATENAを好きになってもらえるように頑張ります!!まだ見たことない方にも、あの佐賀競馬場でのステージ絶対みてほしいです♪メンバー7人で心からお待ちしてます


6枠 緑色担当 垂水愛莉

私はアイドル初挑戦ということもあり、ステージに立つ前は色んな不安な気持ちでいっぱいで緊張してましたが、いざステージに立ってみるととにかく楽しくて!!はやくまたステージに立ちたい!という気持ちになりました。天候にも恵まれ、沢山の方に観て頂き、最高のスタートを切れたと思います!
次は2回目のプレデビューライブですが、前回よりもパワーアップした私たちが見られると思います!!まだ活動はスタートしたばかりですが、7人で支え合いながら練習を頑張っているので、ぜひ観に来ていただけるとすごく嬉しいです!絶対楽しませます!!一緒に盛り上がりましょう♪


7枠 橙色担当 青木ひまわり

初めてのアイドル活動で不安と緊張がたくさんありましたが、ステージに立ったあの瞬間、世界がキラキラ輝いて見えました☆彡
ずっと憧れだったアイドルになることができて本当に嬉しいです♡
今までアイドルにたくさん幸せや勇気を貰ったのでこれからは、私が皆さんに幸せや勇気を与えます!!☆彡
2回目のプレデビューイベントは、もっとウマテナの良さが伝わるステージになったらいいなと思います!^_^
個性溢れる、面白くて可愛いウマテナにもっと注目してくださいね♡♡
皆さんにお会いできるのことを楽しみにしています!!


8枠 益子夏季

まだプレデビューなのにも関わらず本当に沢山の方に
ステージを観ていただけて、競馬ファンの方にも
これから応援するからね!と声をかけていただけて本当に
嬉しかったです!3月24日は2回目のステージに
なるのでより一層パフォーマンスに磨きをかけて
楽しんでライブしたいとおもいます!


とっても明るくて、パワフルなUMATENAの7人。
前回は衣装に佐賀競馬公式キャラクター「パッカルくん」の人形をつけているメンバーもいて、もしかしたら今回もどこかにパッカルくんが潜んでいるかもしれません。
それを見つけるのも楽しそうです。

ぜひ、レースと併せてUMATENAのライブをお楽しみください。

文/大恵 陽子

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佐賀競馬公式HP
佐賀競馬公式X
UMATENA公式Instagram
UMATENA公式Xアカウント

 

NARグランプリ2023レポート第三弾!~調教師編~

2024年03月05日

2月22日に都内で行われたNARグランプリ授賞式のレポート。最終回となる第3弾は、調教師部門の各賞を受賞したみなさんの声を、競馬リポーターの大恵陽子がお伝えします。


NARグランプリ調教師部門の受賞者

まずは地方競馬全国リーディングにあたる最優秀勝利回数調教師賞を受賞した田中守調教師(高知)。
2010年以来2回目の受賞で、前回は「今みたいにインターネットでの情報も充実していないし、大晦日まで全国リーディングだなんて知らなかったです。(赤岡)修次と一緒に授賞式に行ったんやけど、『こんな世界があるんや』ってくらいビックリしました」と振り返ります。
あの時と同じく、今回も赤岡修次騎手とのダブル受賞となりました。


「年間を通してこれだけの勝ち鞍を挙げられて、馬を預けてくださっているオーナーさんに感謝申し上げたいです。1頭1頭の馬に対して、しっかり調整・調教をしてくれた厩舎スタッフ、ジョッキー、関係者の皆さん、そしてファンの方にはすごく励ましていただいて感謝しています」


「またこの授賞式に来たい」と願って以来、13年ぶりの最優秀勝利回数調教師賞受賞となった田中守調教師(高知)


そう話した30分前には姫路競馬場で管理するリケアサブルが兵庫ユースカップを勝利。重賞での活躍も目立ち、特に昨年は14年ぶりの高知三冠馬となったユメノホノオの活躍が印象的でした。一方で、蹄鉄を固定する釘の消耗するスピードが他の馬よりも早く、頻繁に釘が折れて装蹄師に来てもらったり、レースでは立ち眩みしそうなほど大出遅れをしたり、とハラハラドキドキさせる馬でもあります。それが魅力でもあって

「なかなか大変な馬でね。いい意味でユメノホノオに振り回された一年だったなと思います」


と笑顔を見せました。
勝率は大晦日まで競った結果、僅差の2位。賞金も全国2位と、すべての部門において非常に高い成績を残しましたが、「数字的な目標は全く考えていません。馬も人も怪我なく、無事に一年を過ごすことができればいいかなと思います」と締めくくりました。


最優秀勝率調教師賞は柏原誠路調教師(兵庫)が8年ぶり4回目の受賞。
前述したように大晦日まで田中守調教師と大接戦を繰り広げていました。


「年末が近づくまでは結構勝たせていただいていたんですけど、『これなら獲れるかな』と意識し始めたからか、何が悪いのか分かりませんけど、全然勝てなくなってしまいました。勝たないと勝たないとって思う中、12月30日に一つ勝ってくれたのが、田中守先生とのちょっとの差になって、運が良かったと思います」


最優秀勝率調教師賞は4回目の受賞となった柏原誠路調教師(兵庫)


ただ、昨年の目標はあくまでも地元・兵庫でのリーディングでした。
13年は兵庫リーディングと最優秀勝率調教師賞にダブルで輝いただけに、今回もそうなれば最高でしたが、飯田良弘調教師99勝に対し、柏原誠路調教師90勝と、あと一歩届きませんでした。


「長男がうちの厩舎で厩務員をしていて、兵庫リーディングを獲るために一緒に頑張ってきました。でも、最後に飯田良弘調教師に離されて、何もかもダメになったなと思っていたら、長男が厩務員の最多勝と、ギリギリで最優秀勝率調教師賞を得られたので、それだけは良かったなと思います」


長男・竜太厩務員は大晦日で退職し、現在はJRA競馬学校厩務員課程に在籍。JRAで調教師になるという夢を叶えるべく、新たな歩みをはじめています。
柏原誠路厩舎も今年は新たなタイトルを目指します。


「兵庫ダービーを勝ちたいですね。重賞は全然獲れていないので、スタッフとどうしたら勝てるのかを考えて狙いたいですし、地元リーディングももちろん狙いたいです」


最優秀賞金収得調教師賞はお馴染みの小久保智調教師(浦和)が5年連続9回目の受賞。
賞金がアップした高知競馬の田中守調教師のほかにも、JBCスプリントJpnI制覇の新子雅司調教師(兵庫)、ジャパンダートダービーJpnIを勝った渡邉和雄調教師(大井)といったビッグタイトルを手にした調教師もいた中、堂々の受賞です。


「多くの方に支えられての賞で、光栄に思います。とにかく勝たなきゃいけないという思いでやっていたので、昨年の数字に関しては少ないと言えば少ないかなと思います。今年は最低限、地方通算2000勝を達成したいです」


5年連続での最優秀賞金収得調教師賞を受賞した小久保智調教師(浦和)


それぞれの喜びと、さらなる飛躍に向けた言葉が聞かれたNARグランプリ授賞式。
今年はどんな人馬が活躍を見せてくれるでしょうか。


文/大恵 陽子

 

NARグランプリ2023レポート第二弾!~騎手編~

2024年03月05日

2月22日に都内で行われたNARグランプリ授賞式のレポート第2弾は、騎手部門の各賞を受賞したみなさんの声を、競馬リポーターの大恵陽子がお伝えします。


各賞を受賞したジョッキーたち

まずは2年連続で地方競馬全国リーディングに輝いた吉村智洋騎手(兵庫)。全国リーディングにあたる最優秀勝利回数騎手賞の受賞は2年連続3回目です。


「2年連続で獲らないと意味がないんじゃないかなと思っていたので、2023年の年初めから獲りに行っていました。だから、昨年は精神的にも結構キツくて、正直、馬に乗っていて楽しいことなんか一つもなかったです」


普段の取材を通しても、吉村騎手は自分自身に厳しい印象があります。それだけに、高い目標を掲げて、自身にプレッシャーをかけ続けた一年だったのでしょう。
その中で、JRA東京競馬場で行われたジャパンカップ(GI、芝2400m)にクリノメガミエースと挑戦する貴重な機会もありました。


JRAのGI騎乗はこれが初めて。世界ナンバーワンホース・イクイノックスの出走で大注目を浴びる中、18着でのゴールではありましたが、こう振り返ります。


「世間では賛否両論がありましたけど、挑戦しないことには成功はありません。周りの人や後輩騎手たちに挑戦する大事さを見せられたんじゃないかなと思います。あの場に行けたことは僕にとってもすごくプラスで、いい経験をさせてもらえて感謝しています」


2年連続で全国リーディングを」と自身にプレッシャーをかけて23年を駆け抜けた吉村智洋騎手(兵庫)


そして、プライベートでは長男・誠之助くんがJRAで3月2日に騎手デビュー。


「息子のデビューは嬉しいです。でも、僕も一人の親。怪我が付き物なので、嬉しい反面、不安も大きくて、怪我なく頑張ってくれればいいなと思います。親子で一緒のレースに乗ることも近々あると思いますけど、負けないように頑張りたいです」


お父ちゃんの意地で、誠之助騎手は「2年連続地方競馬全国リーディングの息子」として注目を集める中、デビューを果たしました。親子共々、注目したいですね。


その吉村騎手と並んでの記者会見だったのは赤岡修次騎手(高知)。7年半先輩にあたるのですが、彼について笑ってこう話しました。


「引退した橋本忠男先生の下で吉村君がやっている時、木村健くん(引退、現調教師)のようなすごく追う子やなと思っていました。がむしゃらだけでやっていたのが、まさか2年連続最多勝になるなんて、不思議な感じです。園田は騎手も多くて厳しい環境だったと思うんですけど、すごく頑張ったんでしょうね。本人が思っている以上にレースでは印がつきすぎることも多いと思います。確実に勝たせるのはかなり神経をすり減らすので、『乗っていて楽しくない』っていうのは、すごく分かります」


1番人気の期待を背負うゆえ、「神経をすり減らすから乗っていて楽しくない」と、トップジョッキーならではの心中を共感し合う吉村智洋騎手(左)と赤岡修次騎手


そう、赤岡騎手も昨年は全騎乗の半数近くが1番人気に推され、「想像を絶するプレッシャーがあった」と言います。そうした中で、勝率38.5%を挙げて最優秀勝率騎手賞(3年ぶり6回目)に輝きました。


同賞が設立されて以降、2番目に高い数値で、トップは10年に自身がマークした38.9%。


「あの時は南関東や全国で乗っていて、『たくさん乗って、全部勝ってやろう』という気持ちでやっていました。今はほとんど自厩舎の馬への騎乗で、レース数もあんまり乗っていません。勝率は狙っていたわけでも何でもないんですけど、所属の田中守先生がいい馬にたくさん乗せてくれて、たくさん勝てたのでありがたいです。
田中守先生とは10年にも一緒に授賞式に来ていて、『久しぶりやね』と話しながら今日も来ました。
色んな記者に毎年、目標を尋ねられるんですけど、答えは一緒で『いま目標はないです』と。目の前の一つ一つを大事に乗って、無事に勝たせられればいいかなと思っています」

所属厩舎の田中守調教師とともにNARグランプリを受賞した赤岡修次騎手(高知)


最優秀賞金収得騎手賞は笹川翼騎手(大井)が初の受賞。
笹川騎手は初の南関東リーディングにも輝き、今年2月には中東・カタールへの遠征も敢行。デビュー時から期待の高かった29歳は進化し続けています。


「南関東リーディングはお正月に森泰斗騎手が怪我で休まれた時から意識しはじめました。賞金はあとからついてくるものだと思っていて、イグナイターでJBCスプリントJpnIとさきたま杯JpnIIと、大きいところを2つ勝てたことが一番の要因だと思います。
騎乗技術にまだまだ満足できていなくて、勉強のためカタールに行きました。トップジョッキーが集まる開催で乗って、レースの質がすごく高くて、『やっぱり自分はまだまだだな』と感じたことが一番の収穫です。馬や競馬に乗るのが上手くなりたい気持ちが一番です。カタールでゼロから厩舎関係者に声をかけるところからスタートしたように、チャレンジする心は忘れたくないです」


イグナイター(兵庫)でのJBCスプリントJpnI制覇などがあと押しし、最優秀賞金収得騎手賞を受賞した笹川翼騎手(大井)


そして、最優秀新人騎手賞と優秀女性騎手賞はともにフレッシュな顔ぶれとなりました。


まずは最優秀新人騎手賞を受賞した山田義貴騎手(佐賀)。祖父と父は佐賀競馬の現役調教師という競馬一家の出身で、22年4月にデビューすると、23年3月の九州クラウンを父・徹調教師が管理するリュウノシンゲンで勝って重賞初制覇のほか、昨年は118勝を挙げました。


「最初の頃は新人賞はそんなに意識していなかったんですけど、後半は周りから『獲れるかも』と言われていたので、受賞できて嬉しいです。周りの若手より騎乗数やいい馬に乗せてもらうチャンスも多かったので、もうちょっと勝てたかなと思います。デビューした時よりは周りが少しは見えるようにはなってきましたけど、焦ってしまうことが多いので、できるだけ冷静に乗ることを心がけています。前年の勝利数を超えられるよう、毎年、頑張りたいです」


最優秀新人騎手賞を受賞した山田義貴騎手(佐賀)は昨年、リュウノシンゲンとのコンビで重賞制覇も果たしました


優秀女性騎手賞は22年12月にデビューした今井千尋騎手(ばんえい)。
通年で騎乗する最初の年となった23年は103勝を挙げ、ばんえいが帯広市単独開催となって以降では最速で地方通算100勝を挙げました。


父・茂雅調教師の下で厩務員をしながら騎手を目指す姿をテレビなどで見かけたことがある人もいるのではないでしょうか。
念願叶って騎手デビューし、どんどん成績を残しています。


「昔から知っている馬主さん、調教師さん、厩務員さんなどいろんな人が素質馬にたくさん乗せていただき、昨年の成績を残すことができました。受賞はすごく嬉しいです。
少しハイペースになっただけで焦っちゃって、酷いレースばかりしてしまうんですけど、冷静に周りを見られるようになりたいです。具体的な数字の目標はないですけど、乗せていただけた馬で全て勝てるように頑張っていきたいです」


優秀女性騎手賞を受賞した今井千尋騎手(ばんえい)は、最速で地方通算100勝を達成。(帯広市単独開催以降)


20代たちはフレッシュさと向上心に溢れ、30~40代の二人は「トップジョッキーしか見ることができない」と言われる景色やプレッシャーを背負いながら、地元の競馬を盛り上げています。


文/大恵 陽子

 

カウントダウン、再開岩手競馬。2023岩手競馬アワード報告

2024年03月01日

2月28日、盛岡競馬場で行われた能力検査

岩手競馬がいよいよ始まる。3月10日(日)が再開初日だが、各きゅう舎も春競馬に向けて着々と準備が進められている。まずは馬体検査からスタートし、2月28日(水)には盛岡・水沢競馬場で能力検査が行われた。


水沢は2R、盛岡は3R。在きゅう馬は水沢が盛岡より1・5倍強ほど在きゅう馬が多く、能力検査のレース数は意外だったが、単なる巡り会わせ。2023年度の年度代表馬、各最優秀馬もすべて水沢所属馬。ある意味で今の力関係を示す結果ともいえる。


その各優秀馬、騎手、厩舎関係者等の栄誉を讃える『2023 IWATE KEIBA AWARDS』授賞式が2月16日(金)、盛岡市内ホテルで開催された。今年度は4年ぶりに一般ファンも参加。2019年以降、コロナの影響で授賞式は関係者のみで行われていたが、復活した交流会では各テーブルで会話の花が咲いていた。

映像提供:岩手県競馬組合

年度代表馬および4歳以上最優秀馬に選ばれたノーブルサターン(牡10歳 父カジノドライヴ)の関係者が、授賞式壇上であいさつした。


オーナーの吉木伸彦さん。「栄えある賞をいただいて大変光栄に思います。ノーブルサターンは勝つときは豪快ですが、負けるときはあっさり。気難しいタイプですが、岩手にきて見違えるように変わりました。ひとえに板垣調教師、きゅう舎スタッフ、高松騎手のおかげです。来シーズンも(年度代表馬の)賞に恥じないよう、岩手競馬を盛り上げたいと思っています」


板垣吉則調教師。「2010年にきゅう舎を開業しましたが、年度代表馬に選ばれたのは初めて。9歳馬でしたが、担当の浅間きゅう務員を始め、スタッフがしっかり体調を管理してくれた結果。本当に感謝しています」


高松亮騎手「ノーブルサターンには感謝しかない。この馬は非常に賢いので、返し馬でボクを落ち着かせてくれます。改めて関係者の皆さんに、おめとうございますと言いたいです。来シーズンもいい競馬を期待しています」


3歳最優秀馬および最優秀牝馬はミニアチュール(牝4歳 父ラブリーデイ)。オーナー・平賀敏男さん「2部門に選ばれて、みなさんに感謝です。印象に残っているレースは東北優駿(岩手ダービー)。これほど頑張ってくれると思わなかったので、すごくうれしいです」


佐藤祐司調教師「目標とするレースは決めていませんが、これから強い古馬が相手にチャレンジしていきたいと思っています」


2歳最優秀馬はフジユージーン(牡3歳 父ゴールデンバローズ)。瀬戸幸一調教師「2年連続で2歳最優秀馬に選ばれるのは滅多にないこと(昨年度はフジラプンツェル)。今シーズンは状態第一に考えてレースを選びたいと思っています」。すでに強さは全国に知れ渡っており、どのレースから始動するか注目が集まる。


最優秀短距離馬はキラットダイヤ(今年7歳・現役引退 父サウスヴィグラス)。板垣吉則調教師「3年連続ですばらしい賞を取れて光栄に思います。3年間、うちのきゅう舎にいましたが、アクシデントがほとんどない。本当に丈夫な馬だなと思いました。今後はいいお母さんになってほしいと思います」


最優秀ターフホースはゴールドギア(牡9歳 父ロードカナロア)。伊藤和忍調教師「1勝のみ(準重賞・かきつばた賞)のみでしたが、年間を通して活躍。交流でも上位を確保(せきれい賞2着、OROカップ3着)して頑張ってくれました。今年こそは紫(重賞)を取らしてやりたいと思っています」


以上の最優秀馬はキラットダイヤを除いて、現役を続行。来シーズンも各路線での主役を演じる可能性が高く、動向に注意を払ってほしい。ちなみに年度代表馬ノーブルサターンは仕上がり次第だが、赤松杯が有望。ただ、大型馬ゆえなのか叩き良化型なので、頭の片隅に記憶しておいてほしい。


文/松尾康司

 

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